塾の「合格体験記」は、どこまで載せていいのか——ステマ規制・肖像権・同意書の実務【2026年版】

最終更新日:2026年8月31日/2026年8月時点の法令・ガイドラインに基づいて記載しています


「ステマ規制が始まったと聞いたのですが、うちのサイトに載せている『保護者の声』も対象になるんでしょうか」

2023年10月にステルスマーケティング規制が始まって以来、こうした質問をよくいただきます。

先に結論をお伝えします。自塾のホームページに載せている体験談は、ステマ規制の中心的な問題ではありません。塾のサイトに載っている以上、それが塾の広告であることは読者にとって明らかだからです。

本当に注意が必要なのは、別の3つです。

良い体験談だけを選んで並べていること。同意の取り方があいまいなこと。そして——卒業から3年後に「あの写真を消してほしい」と言われたとき、何日で消せるかということ。

この記事は、「載せるときのルール」だけでなく「消すときに何が起きるか」まで扱います。


結論:論点は4つ、危険度は思っている順番と違う

何が問題になるか根拠となるルール塾での危険度
良い体験談だけを選んで載せる景品表示法(優良誤認)
同意の範囲があいまい肖像権・個人情報保護法
掲載後に削除を求められる肖像権(同意の撤回)
口コミ投稿を依頼・謝礼で促す景品表示法(ステマ規制)中(自塾サイト外の話)

多くの塾長さんが心配している4番目は、実は自塾サイトの話ではありません。まずそこを整理します。


ステマ規制が問題にする場面はどこか

2023年10月1日から、事業者の広告であるにもかかわらず、それが分からない表示が景品表示法上の不当表示として規制されています。判断のポイントは、一般消費者にとって事業者の表示であることが明瞭かどうか、逆に言えば第三者の自主的な声だと誤認されないかどうかです。

自塾のホームページの「保護者の声」欄は、塾が運営するサイトの、塾が作ったページに載っています。塾の広告として読まれることは明らかなので、「事業者の表示だと分からない」という問題は起きにくい領域です。

ただし、塾にも当てはまる例外が3つあります

① 口コミを割引や謝礼と引き換えに依頼する

2024年6月、消費者庁はクリニックを運営するある医療法人に対し、ステマ規制に基づく初の行政処分を行いました。来院した人に、Googleマップの口コミ欄に高評価をつけることを条件に費用を割り引くと伝え、複数の人が星5の評価を投稿した、という事案です。消費者庁は、これらの投稿による表示は同法人の表示にあたると判断しました。

塾に置き換えれば、「Googleの口コミを書いてくれたら教材費を割引します」がこれに当たります。

② 講師や関係者に、身分を伏せて書かせる

講師本人や、その家族・知人に、塾との関係を明かさずに口コミサイトへ投稿してもらう。これは典型的なステマです。

③ 紹介キャンペーンでSNS投稿を求める

「お友だちを紹介してくれたら特典」自体は問題ありませんが、特典と引き換えにSNSでの投稿を求める場合、その投稿に塾の関与が分かる表示(「#PR」「〇〇塾から特典を受け取っています」など)が必要になります。

【関連記事▼】

「〇〇高校合格!」はどこまで書いていいのか——塾のホームページと景品表示法【2026年版】

本丸は優良誤認——「個人の感想です」がなぜ効かないのか

自塾サイトの体験談で本当に問題になるのは、ステマ規制ではなく優良誤認です。

消費者庁の見解は、かなり厳しい

消費者庁が公表している「打消し表示に関する実態調査報告書」は、体験談を用いた広告について踏み込んだ整理をしています。

報告書によれば、体験談を見た一般消費者は「大体の人が同じような効果を得られる」という認識を抱きます。そして、「個人の感想です。効果には個人差があります」「効果を保証するものではありません」といった打消し表示に気づいたとしても、体験談から受けたその認識が変わることはほとんどない、とされています。

さらに報告書は、体験談を広告に使う場合には、事業者が行った調査における被験者の数体験談と同じような効果が得られた者の割合得られなかった者の割合などを明瞭に表示すべきである、という考え方を示しています。

これを塾に翻訳すると

「3か月で偏差値が15上がりました」という声を載せるなら、同じ3か月で偏差値が上がらなかった生徒の割合も、あわせて出せますか。

出せる塾は、まずないと思います。私たちも、出せる塾を見たことがありません。

もちろん、この報告書は健康食品などの広告を主な念頭に置いたものであり、塾の合格体験記がただちに同じ基準で判断されるとは限りません。ただ、「良かった人の声だけを並べる」という手法そのものにリスクがあるという消費者庁の考え方は、業種を問わず参照されるものです。

では体験談を載せるのをやめるべきか。そうではありません。載せ方を変えれば済みます。


解決策:「効果」ではなく「体験」を語らせる

問題になるのは、体験談が効果や成果を訴求している場合です。逆に言えば、成果ではなく指導の中身や過程を語ってもらえば、この論点はかなり回避できます。

具体的には、こう書き換えます。

Before(効果を語らせている)After(体験を語らせている)
「3か月で偏差値が15上がりました」「毎週の小テストで、間違えた問題だけをやり直す時間が授業内にありました」
「絶対に無理と言われた〇〇高校に合格できました」「志望校を決めるとき、模試の判定だけでなく、過去問との相性で相談に乗ってもらいました」
「先生のおかげで成績が急上昇しました!」「質問できるタイミングが決まっていたので、聞きそびれることがありませんでした」
「勉強嫌いだった子が自分から机に向かうように」「毎日やる分量が付箋で決められていて、終わったら剥がす形でした」

Afterのほうが、実は保護者に刺さります

ここが重要なところです。これは法務上の妥協ではありません。

「偏差値15アップ」は、どの塾のサイトにも書いてあります。読み比べている保護者にとって、数字は差別化の材料になりません。しかし「間違えた問題だけをやり直す時間が授業内にある」は、その塾にしかない情報です。

成果を語らせると他塾と同じ文面になり、過程を語らせるとその塾の指導が見える。優良誤認の回避と、広告としての効果が、同じ方向を向いています。

体験談を依頼するときの質問を、「成績はどう変わりましたか」から「授業で印象に残っている場面はありますか」に変えるだけで、集まってくる文章の性質が変わります。


肖像権:問題は「同意を取ったか」ではなく「何に対する同意か」

写真を載せる場合、肖像権の問題が加わります。

自分の容姿をみだりに撮影されない権利、撮影された写真をみだりに公開されない権利は、肖像権として法律上保護されています。侵害された場合には、損害賠償請求や削除請求が認められます。

そして未成年の場合、掲載に同意する権限は親権者にあります。生徒本人が「載せてもいいですよ」と言ったとしても、それだけでは足りません。

実際にトラブルになるのは、同意の有無ではなく「範囲」

多くの塾は、何らかの形で同意は取っています。問題は、その同意が何をカバーしているかが決まっていないことです。

  • 媒体:ホームページだけか。チラシ、パンフレット、SNS、ポータルサイトへの転載も含むか
  • 期間:在籍中だけか。卒業後も継続して掲載してよいか。上限年数はあるか
  • 加工:顔をそのまま出すか。イニシャル表記か。写真は後ろ姿か
  • 学校名:「〇〇中学校」まで書くか、「市内公立中学」までにとどめるか
  • 撤回:やめたくなったとき、誰にどう言えば消えるのか

「ホームページに載せてもいいですか」と口頭で確認しただけの場合、上のどれについても合意が存在しません。数年後に認識の食い違いが出るのは、ここです。


個人情報保護法:義務は意外と軽く、年齢の話は意外と重い

写真の掲載そのものについて

個人情報保護委員会のQ&Aでは、本人を判別できる写真の画像は個人情報には該当するものの、個人データ(個人情報データベース等を構成する個人情報)ではないと解されるため、あらかじめ本人の同意を得ずに展示等を行っても第三者提供の規定に違反するおそれはないと解される、とされています。

ただし同時に、利用目的を通知または公表することは必要とされています。

塾の実務に落とすと、こうなります。プライバシーポリシーや入塾時の書面に、「ホームページ・広報物への掲載」という利用目的が書かれているでしょうか。「入塾手続きおよび指導のため」としか書いていない場合、体験談や写真の掲載はその範囲を超えている可能性があります。

これは1文を追記するだけの話ですが、書いていない塾はかなり多いはずです。

年齢の話

同じQ&Aでは、法定代理人等から同意を得る必要がある子どもの年齢について、対象となる情報の項目や事業の性質等によって個別に判断されるべきとしつつ、一般的には12歳から15歳までの年齢以下の子どもについては、法定代理人等から同意を得る必要があると考えられる、という整理が示されています。

つまり、中学生の合格体験記は、本人の同意だけでは足りないと考えておくべきです。高校生についても、肖像権の観点では18歳未満は親権者の同意が必要になります。

「卒業する前に本人にサインしてもらった」だけでは、後から親権者に異議を申し立てられる余地が残ります。


最大の落とし穴:3年後に「消してほしい」と言われたとき

ここからが、この記事で最もお伝えしたい部分です。

掲載時の手続きをどれだけ丁寧にやっても、後から削除を求められる可能性はゼロになりません。そして実際、こういう連絡は来ます。

  • 卒業生が就職活動を始め、自分の名前で検索されたときに出てくるのを避けたくなった
  • 家庭の事情が変わり、保護者が子どもの氏名や写真の公開を望まなくなった
  • 転居・転校し、以前の学校名と結びつけられたくなくなった
  • 進学先で事情があり、過去の受験の記録を残したくなくなった

これらは「面倒な要求」ではありません。掲載してから何年も経てば、人生の事情は変わります。10年前に中学3年生だった人が、今は社会人として自分の情報の出方を気にしている。ごく自然なことです。

そして肖像権は人格権に属する権利なので、一度同意したからといって、その後永久に拘束されるとは限りません。事情の変化を理由に撤回を申し入れられれば、塾としては応じるのが基本の対応になります。

このとき問われるのは、法的な正しさではなく「何日で消せるか」です。

「確認して対応します」と答えてから2週間、卒業生の顔写真がサイトに残り続ける。その2週間のあいだに、相手の不信感は静かに膨らみます。逆に、その日のうちに消えていれば、その塾に対する印象はむしろ良くなるかもしれません。


同意書に入れるべき9項目

掲載時に確認しておくべき項目を整理します。

  1. 掲載媒体:ホームページ/チラシ・パンフレット/SNS/ポータルサイト/その他
  2. 掲載期間:在籍中のみ/卒業後〇年間/期間を定めない
  3. 氏名の表記:実名/姓のみ/イニシャル/仮名
  4. 学校名の表記:具体名/「市内公立中学」等の総称/記載しない
  5. 写真の有無と加工:顔写真/後ろ姿・手元のみ/写真なし
  6. 文章の編集:塾が読みやすく編集してよいか/原文のまま掲載か
  7. 同意者:生徒本人および親権者の双方の署名
  8. 撤回の申し出先:担当者名・連絡方法(電話/メール/窓口)
  9. 撤回時の対応期限:申し出から何営業日以内に削除するか

このうち、8番と9番を書いている塾はほとんどありません。しかし実務上いちばん効くのはこの2つです。「いつでも、こちらにご連絡いただければ、3営業日以内に削除します」と最初に書いてある同意書は、それ自体が保護者への誠実さの表明になります。

同意書を作るときのお願い

上の9項目は、実務上検討すべき論点の整理であって、法的に有効な同意書のひな形ではありません。

実際に使用する同意書を作成・改訂する際は、必ず弁護士など専門家の確認を受けてください。同意の有効性は、書面の文言だけでなく、説明の方法、署名を得る場面、生徒・保護者との関係性など、個別の事情によって判断が分かれます。インターネット上のひな形をそのまま使ったり、この記事の項目だけで書面を完成させたりすることは、おすすめできません。

費用を抑えたい場合は、体験談の同意書だけを単独で依頼するより、入塾契約書や重要事項説明書とあわせてまとめて見てもらうほうが効率的です。地域の弁護士会が実施している中小事業者向けの法律相談を入り口にする方法もあります。


消せる速度が、そのまま信頼になります

ここまでの話は、突き詰めると2つの作業に集約されます。

ひとつは、体験談の文面を「効果」から「体験」に書き換えること。もうひとつは、削除を求められたときにすぐ消すこと。

どちらも、法律の難問ではありません。文章を1つ差し替える、写真を1枚外す。それだけの作業です。

問題は、その作業に何日かかるかです。

ホームページを制作会社に依頼している場合、「この体験談を削除してほしい」という依頼は、連絡・見積もり・作業日程の調整・確認・公開という手順を踏みます。軽微な修正でも都度費用が発生する契約なら、なおさら腰が重くなります。

そして体験談は、一度載せたら終わりのコンテンツではありません。毎年3月に新しい合格体験記が加わり、古いものは掲載期間が切れ、時々削除の依頼が入る。継続的に手を入れ続ける前提のページです。

正直にお伝えしておくと

この記事を書いているchottoは、塾長ご自身がホームページを作成・更新するためのサービスです。

chottoを使えば、同意書の内容が適切になったり、体験談の書き方が景品表示法に適合したりするわけではありません。何をどう書くか、どこまで同意を得るかを判断するのは塾長ご自身であり、その判断を代わって行うことはできません。

chottoができるのは、「消してほしい」と言われたその日に、自分の手で消せる状態にしておくことだけです。ただ、この記事を読んで直したくなった箇所のほとんどは、専門知識ではなく作業の速度の問題だと思います。


参考・確認先

制度やガイドラインは改定されます。実際の判断にあたっては、必ず最新の原典をご確認ください。

ご注意

本記事は、学習塾における体験談・写真の掲載に関する一般的な情報の提供を目的としたものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。

特に、第8章で挙げた同意書の項目は、検討すべき論点を整理したものであって、法的に有効な書面のひな形ではありません。実際に同意書を作成・使用される場合は、必ず弁護士等の専門家にご確認ください。

また、掲載内容が景品表示法上問題となるかどうかは、表示全体の内容や取引の実態によって判断が分かれます。個別の判断が必要な場合は、消費者庁の相談窓口、お住まいの自治体の消費生活センター、または広告表示に詳しい弁護士にご相談ください。

記載内容は執筆時点の法令・ガイドラインに基づいています。改定により内容が変わる可能性がありますので、実務にあたっては必ず原典をご確認ください。


あわせて読みたい

「〇〇高校合格!」はどこまで書いていいのか——塾のホームページと景品表示法【2026年版】 学習塾のホームページに補助金は使えるのか?【2026年版・制度別に正直に解説】

この記事は、学習塾向けのホームページ作成サービス「chotto」が作成しました。

[chottoについて詳しくはこちら]